コラム第20回
ストレスが歯周病を悪くする?専門医から提言①
はじめに
皆さんはストレスを感じずに生活をすることは可能でしょうか。ストレスは万病の元と言われますが、現代人はどんな生活を送っていてもストレスと無縁で生活することはできないと思います。
仕事やスポーツの領域では、適度なストレスは緊張感や集中力を高め、モチベーションを保つ効果があるとされており、ある程度は有益なものです。(緊張感がない生活は、だらだらしてしまって不健康になりがちですよね)
では、過度のストレスが加わった場合はどうなのでしょうか。昨今は過剰なほど忙しく働く方や、子育て中の方はもちろんお子さんでも受験勉強のストレスなど、非常に強いストレスにさらされています。そんな中で、ストレスに起因する「顎関節症」や「歯周病」などになってしまったら、さらに余計なストレスを背負い込むことになりかねません。
今回は口腔内の環境とストレスの関係性についてご説明いたします。
過剰なストレスがもたらすもの
上記のコラムでもお話ししましたが、歯周病ができる過程において大前提となるのが、口腔内の歯周病細菌が歯周病を引き起こすということです。ブラッシング不足だと歯周病菌が歯周ポケット内に定着し、炎症を起こすことで歯周病が発症します。つまり歯周病細菌が口腔内に存在しなければ歯周病はそもそも起こらないということです。
そのうえで、その他の様々な要因(悪化因子)加わると歯周病が進行してしまいます。過剰なストレスがもたらす悪化因子とはどのようなものがあるのでしょうか。
①免疫力の低下
これは口の中に限った話ではありませんが、過度のストレスにより人体の免疫力は低下します。
わたしたちは人の体の中で免疫担当の細胞のことを「白血球」と呼んでいます。白血球はいろいろな免疫細胞が集まったもので、好中球、リンパ球、単球、顆粒球、マクロファージなどが存在しています。
この「白血球」による免疫反応は、自律神経による影響を強く受けていて、活発な状態では交感神経が優位になり、落ち着いた状態では副交感神経が優位になりバランスを取っています。過度なストレスが加わると自律神経のバランスが崩れ、例えば自律神経失調症や重症になるとうつ病を引き起こしたりすることはよく知られています。
口腔内への自律神経の影響
実は、同様に自律神経が弱ってしまうと、口の中にも影響が出てきます。
私たちが持続的な強いストレスを受けると、脳からでたステロイドホルモンや神経伝達物質が自律神経に悪影響を与え、白血球中のリンパ球や細胞の働きを低下させます。この免疫系の細胞の働きが弱くなるということが問題で、普段は歯周病菌と戦ってくれるはずの細胞が組織を守れず、歯周病菌の産生する毒素の影響を受けやすくなってしまいます。そのため歯周病が短期間で進行してしまうことになるのです。
②ストレスによる歯ぎしり
コラム第14、15回歯ぎしりって悪いもの?歯周病との関連を専門医が解説
上記のコラムでもお話ししていますが、歯ぎしりに関してなぜするのかをはっきり解明した研究はありません。しかし、一般的に日中のストレスを歯ぎしりによって解消しているのでは?と言われています。
もともと歯周病がある方は歯周組織(あごの骨)が溶けて歯を支える骨が少なくなっていることが多いので、ストレスによって悪化した「歯ぎしりによって生じる横方向の力」が歯とその周囲組織に加わって、歯周組織が脆くなったり、歯の土台の動揺性が大きくなってしまうことがあります。
その結果として、急激に歯周病が悪化してしまう可能性があります。これの対策としてはマウスピースが有効で、上下の歯を保護する、歯周組織を保護することができます
③ハミガキ不良や生活習慣の悪化
ハミガキはお口の環境を整える基本になります。そのため、ハミガキの時間が取れなかったり、ハミガキに意欲が失われたりすると、口腔内の歯周病菌は増加し、歯周病のリスクは上がってきます。
仕事や育児、勉強で疲れてしまって食後やお風呂上がりに寝てしまう。とにかく家にいる時は疲れて気力がない、歯磨きを忘れてしまう…こういったことを皆さまも一度は経験したことがあると思います。(私もあります)
歯医者さんに通ってブラッシングをきちんとしてくださいと言われても、わかっているけど今は忙しくてやっていられないと思うことは多いですよね。
しかし、そこで歯周病が悪化してしまっても誰も責任を取ってくれません。歯周病まで悪化してしまったら、落ち込んでいたところにさらに追い打ちになってしまいます。
忙しくて食後に時間が取れないのであれば、食事と時間を切り離しましょう。例えば食後にこだわらず、「職場についた直後の10分」「昼食をつくった後の10分」「入浴後の10分」などルールを決めて、なんとか歯磨きの時間を確保できるように考えかたを変えてみるのもいいと思います。
まとめ
今回は、ストレスが口腔内の環境を悪化させる仕組みを解説しました。
次回のコラムでは、危険なストレスへの気づき方、対処法に関して専門家の視点でお話いたします。