コラム第31回
【専門医が解説】「何を食べるか」で変わる口内環境
あなたの体は食べたもので構成されている
お口の健康を維持するためには日々の口腔ケアが重要です。
しかし、それと同じくらい重要なのが食生活です。
2009年に行われた実験で、石器時代の食生活を再現して、老若男女10人が1カ月間生活し、口内環境の変化を調べるというものがありました。
電化製品などは使用せず、野生のヤギの肉、野草や品種改良されていない未精製の穀物を摂取したそうです。
その間は、歯ブラシ等は一切使用しなかったのにも関わらず、驚くことに歯周病の各種指標は改善されていたそうです。
歯周病の要因が毎日の食生活であることを示す結果といえますね。
また、歯科治療においても、抜歯などの治療後の傷の直りを経過観察中、栄養状態の良い方とそうでない方では治る早さに差があります。
今回は、お口の健康のために重要な栄養素を紹介しながら、栄養学から口腔ケアを考えていきます。
3大栄養素のうち「タンパク質」が最も重要!
炭水化物・タンパク質・脂質が基本的な3大栄養素と言われています。ズバリこの中で最も多機能で重要な役割を担っているのがお肉や大豆に含まれるタンパク質です。
エネルギー源として
タンパク質は分解されアミノ酸として、小腸粘膜から吸収されます。
アミノ酸は血液中や細胞内に遊離アミノ酸として蓄えられ、良質なエネルギー源として使われます。
最優先のエネルギー源とするには様々な観点から望ましくありませんので、基本は脂質、激しい運動時はアミノ酸のサプリメントなどで補うような形が良いでしょう。
体を作る「構造タンパク質」
タンパク質は皮膚、粘膜、筋肉、コラーゲン、硬組織などの基本的な構成成分です。
コラーゲンと歯周組織
コラーゲンは体のタンパク質の内30%を占めている繊維状のタンパク質です。細胞同士をつなぎ合わせる接着剤のような役割を持つ、非常に重要な組織です。
口腔内のコラーゲンの代謝は、歯を支える骨(歯槽骨)で6日、歯肉で5日と非常に短いスパンで代謝が行われています。また、歯茎と歯の間にある歯根膜はわずか1日で代謝が行われていることが明らかになっています。
このように口腔内の代謝は他の組織に比べて非常に活性化しているため、歯列矯正などの歯の移動が可能なのです。
逆に言えば、もしタンパク質やコラーゲンを合成するためのビタミンCが不足してしまうと、歯肉から血が出るなどの症状が出てしまう、非常にデリケートな組織と言えます。
歯やあごの骨を支える役割
歯を支える歯槽骨や歯の象牙質もコラーゲンと密接な関係があります。そもそも骨の基質となっているのはコラーゲンで、これが不足していると骨質が低下してしまいます。
また、後述するコラーゲンを分解してできるPro-Hypは歯槽骨や象牙質の生成を活性化する役割を担っています。
唾液もタンパク質から作られる
口腔内の免疫機能を担っているのが唾液です。唾液のネバネバであるムチンは、口腔内の乾燥を防ぎ、グロブリンは病原菌を排除する役割を担っています。これらは全てタンパク質からできています。
体の循環やケガの直りを早める「運搬タンパク質」とPro-Hyp
運搬タンパク質として有名なのが血液中の酸素を運ぶヘモグロビンや、栄養素を運ぶアルブミンです。
投与された薬剤もこのアルブミンと結合して体内に運ばれるため、タンパク質が不足していると薬効も弱まってしまいます。
タンパク質の必要摂取量
タンパク質は貯蔵するような仕組みが体内にはありません。なので不足すると筋肉が分解されて、生成されます。なので、毎日必要な量を摂取する必要があります。
体重1Kg当たり1gのタンパク質が接種の目安です。50Kgの方は50gということになります。アスリートや成長期のお子さん、妊婦の方は必要摂取量が増えます。
糖質の摂りすぎには要注意
最近はコンビニなどでもおいしいスイーツが安価で食べられますよね。私も甘いものは大好きです。
ただ、皆さんご存じの通り糖質はお口にとって要注意です。むし歯になりやすいだけではありません。
食後の高血糖によってタンパク質と糖が結合する「糖化」という現象がおこります。例えば、糖化したヘモグロビンは酸素運搬能力を失っているので、心肺機能の低下などを引き起こします。
糖化したタンパク質はやがて最終糖化産物となります。ここまでくると元の物質に戻ることができません。糖尿病患者の歯肉にはこの最終糖化産物が蓄積しており、歯周病を悪化させる要因になっているという報告もあります。
また、高齢者の方ほど、糖質過多になりやすいというデータもあります。これは咀嚼能力の低下により、イモ・穀物類の摂取が増えるからと言われています。高齢者になっても噛み続けられるためにも、お口の状態を保つことは大切です。
↓80歳でお肉(29)を食べれるようにという8029運動という取り組みもあります。
人工甘味料はむし歯になる?
食品添加物として認めてられているスクラロースなどの人工甘味料は、むし歯の原因菌となるミュータンス菌が分解・代謝できないため、むし歯にならないと言われています。
ただし、残念ながら血糖値をコントロールする機能や腸内環境を悪化させ、耐糖性を損なうという報告もあるため、過剰に摂取するのは控えた方が良いでしょう。
その他の重要な栄養素
詳しい説明は長くなってしまうので省かせていただきますが、その他に口内環境のために接種するべき栄養素をご紹介します。
ビタミンB
ビタミンC
ビタミンD
ビタミンE
ビタミンK
カルシウム+マグネシウム(豆乳に多い)
ヘム鉄(動物性タンパク質に多い)
オメガ3脂肪酸(アマニ油や魚油)
おすすめの食事メニュー
現代の日本人はほとんどの方が糖質過多・タンパク質不足と言われています。
なので、まず糖質を減らし、タンパク質を多く接種するように心がけましょう。白いご飯を精錬度の低い五穀米に変えるのもおすすめです。タンパク質は一日1~1.5g/Kg程度必ず摂取します。サラダにアマニ油のドレッシングをかけて、ビタミンと良質な脂質も補えれば良いですね。
また、年末年始など、外食や栄養過多になりやすい時期は、連続してそのような日が続かないようにメリハリをつけるように意識しましょう。糖質過多が習慣にならないように、甘いお菓子などは「ごほうび」として楽しむようにしましょう。