コラム第3回
歯科専門医が教える、虫歯を放置することで起こる病気とは?
皆さん虫歯(=う蝕)になった経験はありますでしょうか。甘いもので痛くなったり、歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなったり、逆に何も症状が無いけれど歯医者に行ったら虫歯だと言われたり、虫歯の症状と状態は多岐にわたります。
今回は虫歯について、そして虫歯を放置した場合、どのようなことが起こるのかについてお話ししたいと思います。
虫歯の状態と進行度について
第1回のコラムでもお話ししましたが、虫歯の原因は細菌が作り出す酸が歯質を溶かすことにあります。我々人間が食事をして排泄をするのと同じように、細菌は口腔内の食渣(食べ残し)などを栄養源として、結果的に酸を産生し、その酸が歯質を溶かしてしまうのです。
虫歯はその進行度で初期の虫歯(C0)を除いて4つの段階に分かれます。
C1:虫歯がエナメル質に限局している
C2:虫歯が象牙質まで進行している
C3:虫歯が歯の神経まで到達している
C4:虫歯により歯質の大半が喪失している
放置して、虫歯が進行すると、歯の寿命を損ねるだけでなく、様々な病気を引き起こすことがあります。
若者と高齢者で異なる虫歯の特徴
虫歯(う蝕)には、上記のC1~4の分類とは別に、急性う蝕と慢性う蝕という分け方があります。
〇急性う蝕
急速に歯髄(歯の中心部)に向かって進行し、痛みが出るもので、若年者を中心にみられます。
〇慢性う蝕
慢性齲蝕は進行が緩やかで、エナメル質と象牙質の境目に沿って進行するため痛みが出にくいのが特徴で、比較的高齢者によく見られます。
急性う蝕は、痛みが出るのは早いのですが我慢してしまうと手遅れになってしまうことがあります。早めの受診が大事です。
慢性う蝕は、痛みを感じづらいため重症化するまで気づかない可能性があります。そのため高齢者は、定期的な歯科でのメンテナンスがより重要になります。
虫歯を放置するとどうなるの?
第1段階:激しい痛みが出現する
虫歯は口の中の細菌の酸によって引き起こされるため、進行するにつれ、増殖した細菌が歯の内部に侵入していくことになります。C3の状態、つまり歯髄にまで細菌が到達すると、神経が侵入してきた細菌を排除しようと免疫反応が起こるため、極めて強い痛みが生じます。この痛みは腫れと共に痛み止めでは抑えきれない大変つらいものです。
第2段階:痛みは治まるが細菌はどんどん増殖する
内部の神経が完全に細菌に感染し、神経自体が死んでしまい逆に症状は無くなります。ここで治ったと勘違いしてしまう人や、痛くなくなったし忙しいからと歯科医院に行かなかったという人も多いです。しかし実際には細菌が歯の内部でどんどん増殖しており、痛みという危険信号さえも機能しなくなってしまっています。
第3段階:根尖性歯周炎になる
歯の内部だけではなく、次に細菌は歯根の先から顎の骨に広がっていきます。顎骨に侵入した細菌を止めようと、体の免疫機構が働く結果、根の先の顎の骨は溶け、内部に膿が溜まります。この状態を根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)と言います。
この細菌侵入と生体の免疫による炎症により、この状態まで至ると再度痛みを伴うようになってきます。
第4段階:歯茎から膿が出るようになる
顎の骨と粘膜を突き破り、歯肉から顎の中の膿があふれて出てきます。とても怖い状態です。
歯周病と勘違いされることがありますが、内部に大量の膿を蓄えており、顎全体に細菌が暴れまわっている状態です。
第5段階:命の危険が及ぶことも…
顎の中まで細菌が及ぶと、そこから血管の血流にのって全身に細菌が運ばれることになります。上顎では目や鼻や脳、下顎では細菌が動脈に乗って全身へ広がって様々な病気を引き起こすことがあります。
心臓の血栓を作って「心筋梗塞」を起こしたり、最近が心臓内で暴れまわって「感染性心内膜炎」を起こします。
目に及べば「失明」の原因になりますし、脳の中では「脳梗塞」「脳炎・髄膜炎」を引き起こします。
このような状態では、歯科治療だけでなく、全身的な検査治療が必要になります。虫歯を放置していて、最近微熱が続いている・よく寝汗を書くようになったなどの症状があれば、すぐに歯科や診療所でご相談をしてくださいね。
今日のまとめ
虫歯はだれもが経験する一般的な病気ですが、放置すると痛みだけではなく、細菌の感染が顎から全身へ波及することもある恐ろしい病気です。そして、痛みは人体の危険信号であり、本当に恐ろしいのはその痛みさえ消えた時だという事を覚えておいてください。
虫歯を軽視せず、ぜひ定期的に歯医者で検診を受け、早期発見・早期治療を心がけるようにしましょう。